引当金
簿記では、
① 将来の特定の費用又は損失であって、
② 費用又は損失の発生が当期以前の事象に起因し、
③ 費用又は損失の発生の可能性が高く、
④ 費用又は損失の金額を合理的に見積ることができる場合、
引当金を計上することとされています。
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修繕引当金を用いた具体例
建物などの有形固定資産は、長期間に渡り使用するために、時の経過とともに老朽化し、修繕が必要になります。
例えば、建物の修繕を当期に行う場合、当期に下記の仕訳(1)をします。
また、建物の修繕を翌期に行う場合、翌期に上記の仕訳(1)をします。
修繕を行った年に上記の仕訳(1)をして、修繕を行った年の修繕費とします。
しかし、この記事のはじめに示したとおり、
簿記では、
① 将来の特定の費用又は損失であって、
② 費用又は損失の発生が当期以前の事象に起因し、
③ 費用又は損失の発生の可能性が高く、
④ 費用又は損失の金額を合理的に見積ることができる場合、
引当金を計上することとされています。
したがって、例えば、長期間使用していた建物が老朽化し、翌期に修繕することが決まっており、当期の時点で修繕代金がおおよそ決まっている場合、当期に、下記の仕訳(2)をしなければならないのです。
なぜなら、
① 翌期の修繕費用であり、
② 建物を、当期まで、長期間使用したことが原因で老朽化し、修繕が必要になり、
③ 翌期に修繕を行うことが決まっており、
④ 当期の時点で修繕代金がおおよそ決まっている、
からです。
翌期に下記の仕訳(3)をするのではなく、
当期に下記の仕訳(4)をしなければならないのです。
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引当金を計上しなければならない理由
当期に、上記の仕訳(4)をすることで、
当期の貸借対照表の負債の部には、修繕引当金が計上されます。
また、当期の損益計算書には、当期の費用として、修繕引当金繰入が計上されます。
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したがって、当期の貸借対照表や損益計算書を見れば、この会社が「将来、有形固定資産の修繕を行う」ことを知ることができます。
将来、修繕をして下記の仕訳(5)をすることになるため、「将来、会社のお金が減ってしまう」ことを知ることができるのです。
貸借対照表や損益計算書などの財務諸表は、会社に出資してくれている投資家(株主)だけでなく、これから出資しようかと考えている将来の投資家や会社にお金を貸そうかと考えている銀行などの債権者にも見られることになります。
投資家や債権者が、「出資しても大丈夫か」、「お金を貸しても大丈夫か」の判断材料に財務諸表は利用されます。
「翌期以降に修繕をしてお金を使ってしまうと、新しい事業が始められないし、優秀な従業員も採用できないだろうから、翌期以降は業績が悪化しそうだな、だから、出資するのをやめよう、お金を貸すのをやめよう」と判断できるのです。
引当金は、費用や損失を早めに計上して(翌期以降の費用や損失を当期に計上して)、投資家や債権者が会社の状態を正しく判断できるようにするために計上されるものです。
これから、会計学(日商簿記1級や税理士試験の財務諸表論など)を勉強される方は、保守主義の原則・費用収益対応の原則・投資家保護・債権者保護などについて詳しく学ぶと、引当金の理解が深まると思います。